お盆は日本の伝統的な行事で、先祖を敬いながらその魂を供養する大切な時間です。しかし、お盆の種類はいくつかあり、それぞれの地域によって行う時期が異なります。この記事ではお盆の種類や新盆でやること、法事や法要といったお盆に関連する儀式をどのように行えばよいのかについて解説します。
お盆とは
お盆とは、1年に1度夏の時期にご先祖様の霊を自宅にお迎えしてその魂を供養する、日本の伝統的な風習です。正式名称は仏教の「盂蘭盆(うらぼん)」や「盂蘭盆会(うらぼんえ)」という言葉で、これを省略して「お盆」といいます。さらに、盂蘭盆会や盂蘭盆の語源はサンスクリット語の「ウラバンナ」とされており、この言葉は「逆さ吊り」という意味を持ちます。ここからお盆は、「地獄で逆さ吊りにされて苦しんでいる先祖の魂を救う」という意味があるとされています。もともとは仏教の教えであったお盆ですが、現在ではそのような仏教色は色濃くなく、家族や親戚が集まってお墓参りをしたり、久しぶりの再会を楽しんだりする行事とされています。お盆は地域によって期間が異なり、新暦と旧暦のどちらを重視するかによって主に3つに分けられます。以下ではお盆の3つの時期について、さらに詳しく解説します。
新盆
新盆は、毎年7月13日から7月16日の期間です。7月に行うため、「7月盆」と呼ばれることもあります。東京や神奈川など首都圏の一部、石川県金沢市、静岡県の都市部、北海道の一部などでは、お盆といえば新盆のことをいいます。新盆は、新暦をもとに決められたお盆の期間です。新暦とは明治時代の改暦後に使われるようになった暦のことで、今現在世界各国で採用されている「太陽暦(グレゴリオ暦)」のことを指します。太陽暦では、地球が太陽のまわりを1周する時間である365日を1年とします。また日数と太陽の動きのずれは、4年に1度うるう年を置いて調整します。お盆の時期が地域によって新盆や旧盆に分かれた理由は、明治時代に行われた改暦にあります。国として採用する暦を旧暦から新暦に変更するにあたり、必然的にお盆の時期も変える必要が発生しました。とくに首都である東京やその周辺地域、一部の地方都市などは明治政府からの影響を強く受け、新暦への適応が徹底して行われました。そのため、日本の一部地域では新暦7月に行う新盆の文化が根付きました。
旧盆
旧盆とは、毎年8月13日から8月16日の間を指します。日本でスタンダードとされているお盆期間です。7月に行う新盆より1か月遅いため、「8月盆」や「月遅れ盆」などとも呼ばれます。旧盆は、東京や一部都市を除く全国で採用されています。旧盆は名前のとおり、旧暦をベースにしたお盆期間です。旧暦とは改暦前まで採用されていた古い暦を指し、日本では「太陰太陽暦」を指します。新月を迎える日を月の初日と考え、その翌日を2日、そのまた翌日を3日と数えます。そして、また新月が来ると新しい月の1日とします。明治時代になるとこの旧暦は廃止され、新暦が使用されます。それによりお盆の時期も7月に変更されました。しかし、東京や都心以外など政府の目が届きにくい地域では、昔からの習慣を変えることが難しい状況でした。そのため、多くの地域では旧暦の8月盆が継続され、今でも全国的に主流の時期とされています。
旧暦の盆
旧暦盆は8月中旬から9月初旬の間に行われ、毎年日付が異なります。参考までに近年の旧暦盆期間を見てみると、2023年は8月28日から8月30日、2024年は8月16日から8月18日、2025年は9月4日から9月6日にあたります。旧暦盆は、沖縄や南西諸島などで行われます。旧暦盆の日程が毎年違う理由は、旧暦に厳密に合わせているからです。また、旧暦は新暦に比べて季節と月日のズレが大きいことも関係しています。旧暦である太陰太陽暦は、新月から新月までを1か月としています。月の満ち欠けの周期は、約29.5日 × 12か月で1年は354日でした。旧暦は新暦よりも1年が11日も短く、ズレが1月ぶんになると調整のためにうるう月を入れて1年を13か月にしていました。そのため、旧暦では同じ日付であっても、新暦に換算すると年ごとに日付が変わってしまいます。たとえば明治3年1月1日は新暦では2月1日ですが、翌年の明治4年1月1日を新暦に換算すると2月19日にあたります。旧暦盆は旧暦の7月13日から7月15日に行われ、新暦のカレンダーに換算すると年によって8月から9月にずれ込むこともあります。一方、新盆や旧盆は毎年厳密にカレンダー換算することがなく日程が固定されているため、どの年も同じ日付で行われます。
新盆で準備するべきこと
新盆とは7月に行うお盆だけではなく、人が亡くなって四十九日が過ぎたあとに初めて迎える初盆のことを指す言葉でもあります。新盆の迎え方は基本的に他のお盆のときと同じですが、親族や友人を招いていつもより華やかに供養し、お盆飾りを白紋天という絵柄のない白提灯に変えるなどの準備が必要です。新盆の際は、まず新盆法要の準備をしましょう。日程を決めたら僧侶に連絡をして、法要の手配を行います。当日僧侶に渡すお布施も、3万円から5万円の範囲で準備しておきましょう。自宅で法要を行う場合は、お車代として別途5,000円から1万円も必要です。法要の手配ができたら、参列者として招待する方々に連絡を入れます。参加人数が確定したら、会食場所を決めたり返礼品を用意したりします。返礼品としては、一般的に1,500円から5,000円くらいの食品や日用品を選びます。法要関連の手配が完了したら、次に新盆飾りの準備を行います。新盆では、絵柄のない白提灯を玄関先に吊り下げます。これは初めて自宅に帰る故人様の霊が迷わないように、目印をおくという意味があります。新盆飾りは通常のお盆飾りと変わらず、仏壇の横などにお棚を置いて精霊馬や果物やお花をお供えします。また、祭壇の周りにはお盆提灯を飾ります。集合住宅などにお住まいでお棚を用意するスペースがない場合は、仏壇やゴザの上にお供え物を置きましょう。
法事と法要について
法事や法要という言葉は混同して使われることが多いですが、厳密には意味に違いがあります。以下ではそれぞれの言葉の意味を説明するため、これを機に両者の違いを覚えて正しく使い分けられるようにしましょう。
法事
法事とは、法要とその後の会食までを含めた一連の行事を指す言葉です。親族や友人など故人と縁が深かった方を招き、僧侶に読経を読んでもらったあとに、故人との最後の会席の場としてや参列者へのお礼として食事を振る舞います。法要のあとに食事の席を設けることが多い行事には、初七日法要、四十九日法要、一周忌法要、三回忌法要などがあります。これらの法要は、故人の命日の中でもとくに重要な節目に当たるため、会食を行って華やかに供養をします。また、法事は仏教行事全般を指すこともあり、毎年行うお盆やお彼岸の供養などを含めることもあります。お盆やお彼岸は故人の命日に行うものではありませんが、故人やご先祖様を偲ぶ仏教行事であるため法事に含まれます。
法要
法要は僧侶による読経や説法、参列者による焼香などを含む仏教的な儀式のことです。法要は一般的に「法事」という言葉でひとくくりにされることが多く、それは間違いではありません。しかし、より正確な表現をする場合、故人の命日にその魂を供養する行事は厳密には「法要」といいます。法要は大きく分けて2種類あり、忌日法要と年忌法要があります。忌日法要は故人の命日を「忌日」として7日ごとに供養を行い、成仏を祈ります。初七日法要から四十九日法要までの全7回を行うのが一般的で、最後の百箇日法要は省略されることが多いです。
年忌法要は毎年の命日のうち、定められた節目の年に行う法要を指します。一周忌や三回忌や七回忌などで実施され、一般的に三十三回忌ほどまで行います。その後は「弔い上げ」と称して、故人の年忌法要を打ち切って終了させます。
お盆法事・法要ですること
お盆に行う法事や法要では、お寺から僧侶を招いて読経してもらったあとに参列者全員で会食を行います。ここでは、法事当日の詳しい流れについて解説します。やることや準備すべきことを事前に知って、法事をスムーズに行いましょう。
施主挨拶
お盆に行う法事では、法事を開く施主から挨拶をします。親族や友人が揃い僧侶も入場したら、施主は下座へ移動して挨拶をします。席順は僧侶が仏前、施主が僧侶にもっとも近い席、それから上座から故人と親交が深かった親族や友人が順に座ります。
施主挨拶では「○○(戒名)の○回忌の法要」をとり行う旨を述べて、参列者への感謝の気持ちなどを加えながら手短に話します。
読経
施主からの挨拶が終わったら、僧侶に読経をあげてもらいます。法要でお経を唱えるのは、故人の霊を極楽浄土に導くためといわれています。お経を唱えると善を積むことができ、故人が極楽浄土へ行く助けにつながります。また、宗派によってはお経は唱えるだけで仏様の救済を得られ、お経を唱えることは故人のご冥福の祈りになるとされています。法要での読経にかかる時間は宗派によって異なり、15分から40分くらいです。読経中は故人のことを想い、安らかに眠れるように心の中で祈りましょう。
お焼香
僧侶からの指示を待ち、お焼香をあげます。はじめに施主が行い、その後は席順にかかわらず故人との関係が深かった順にお焼香を行います。自分の番がきたら会釈をしながら席を立ち、祭壇の前に移動したら遺族に一礼し、焼香台の前に進み遺影に一礼します。数珠は左手に持ち、右手の親指と人差し指と中指で抹香をつまんで額に押しいただきます。抹香を静かに香炉の炭の上にくべて、これを自身の宗派に合わせて1回から3回繰り返します。その後は数珠を両手にかけて合掌してから遺影に一礼し、一歩下がって遺族に一礼してから席に戻ります。
法話
読経やお焼香が終わったら、僧侶からの法話を聞きます。法話とは仏教の考えに基づいた話をして、一般の人にもわかりやすく仏様の教えを伝えることです。法要で法話をする理由は、故人の霊を慰めたり残された人を励ましたりするためです。故人や遺族との関わりが深い菩提寺の僧侶は、故人との思い出を交えながら話をすることもあります。法話が終わったら、参列者は合掌と一礼をしましょう。その後は施主が挨拶を行い、法要は終了です。○○(戒名)の○回忌の法要が終了したこと述べて、会食がある場合は会場などの案内をします。法要を菩提寺で行った場合は、お墓参りをしてから会食に向かいます。
会食(お斎)
法要の後は参列者や僧侶と一緒に、お斎(おとき)と呼ばれる会食を行います。お斎では参列者への感謝を示したり、故人の思い出を語り合ったりします。会場は菩提寺や自宅、ホテルやレストランなどさまざまな場所で行われます。席次は最上座に僧侶と施が座り、その他の席に親族や友人が着きます。お斎では精進料理を出すといわれていますが、最近では会席料理が一般的です。ただし、料理をお願いするときの注意点として、鯛や伊勢海老など縁起のよい食材が入らないように気をつけましょう。法要の後の会食であることをお店側に事前に伝えておくと、トラブルを避けられます。
法事・法要のマナー
法事や法要では故人の冥福を祈る気持ちを表すためにも、マナーを守ることが重要です。穏やかに法事を進めるためにも、守るべきマナーを紹介します。
服装
一般的に三回忌くらいまでは、正式な喪服を着用するのがおすすめです。男性は黒いスーツ、襟付きの白いシャツ、黒無地のネクタイを着用します。女性は黒いスーツやワンピースなどが適しています。「平服で」といわれた場合も、フォーマルを意識した服装をしましょう。
お焼香のマナー
お焼香のマナーは宗派によって異なり、とくに回数は多くの方が迷います。真言宗や日蓮宗は通常3回、天台宗や浄土宗や曹洞宗は回数規定がありません。浄土真宗は抹香を額に押しいただかず、つまんだらそのまま香炉に落とします。お焼香は心を込めて行うことが重要なため、知識程度に知っておきましょう。
アクセサリーや持ち物
男性の場合、光り物は避けましょう。タイピンやカフリンクスをつけるなら、色味が落ち着いていて宝石のないものがよいです。女性は、一連の真珠のネックレスや結婚指輪ならつけても問題ありません。また、数珠は法要に参列する際のマナーであるため、忘れずに持っていきましょう。
まとめ
お盆には3種類あり、7月に行う新盆、8月に行う旧盆、8月から9月の間で年ごとに日付が変わる旧暦盆に分けられます。また、新盆とは、故人が亡くなってから初めてのお盆を指す言葉でもあります。お盆と関連して法事や法要を行うこともあり、法要は読経や焼香などの儀式を、法事は法要と会食までを含めた行事を指します。
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